夜桜

母が入院してひと月余。
見舞いに行った帰り路、
車のムーンルーフから見上げた夜桜は、
街灯に照らされた花房が重たげに幾重にも重なって、
夢の中の様に美しかった。

翌日の昼間、車に乗ると、
知らぬ間に窓から降り込んだらしく、
其処彼処
(そこかしこ)に桜の花びらが落ちていた。
(はかな)げで愛らしい様(さま)に、
捨てられずそのままにしておいたら、
今度はいつの間にか姿を消していた。

 

このひと月後、母は逝った。
この年の桜は見ぬままに。

('040403撮影)


春風の花を散らすと見る夢は
覚めても胸の騒ぐなりけり
              (西行)

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