百鬼・善彦
「いつになるやら・・・」

先日、建設中の岐阜県・徳山ダムの見学会に行って来ました。完成すれば高さ全国第3位、貯水量は日本一となる巨大なダムです。ヘルメットを被って、普段は一般人が入れないダムの一番下まで行ったのですが、想像を遙かに超えるスケールの大きさに驚愕。まるで「プロジェクトX」の世界でした。
未だ本体が殆ど無いにも関わらず威圧感が凄くて、人間より大きいタイヤをはいた90トントラックとか、天を突くようなクレーンとか・・・目の前で動き回っている、そうした化け物みたいな重機や工事車両が玩具に見える程、ダム本体の築かれるであろう空間は、とんでもなく大きかったです。完成したらどれほど凄いか…。

・・・実は10年以上前、このダムを題材にした140ページ近い妖怪物の話を考えました(河童と座敷童子を出したかったので、設定は岐阜県ではなく岩手県に変えてありますが)。しかし某少年誌の担当に却下されて以来、ラフコンテのまま本棚に眠っているのです。ここに載せているのは、その中から幾つかのコマを選んで適当に組み合わせてみたものです(実際のラフの1ページのコマ割そのままではなく、数ページ分のコマを切り張りした状態なので、場面が繋がっていない箇所がありますゆえ御注意下さいませ)。

額に傷のある髪の短い少年が善彦、もう1人の少年が主人公の百鬼(なきり)。2人の後ろにいる大人は百鬼の父。ダムに沈む村で行われている発掘現場を訪れた、考古学者の父にくっついて来た百鬼は、立ち退きを拒んで祖父と2人きりで住んでいる善彦と、ある事件をきっかけに知り合ったものの、互いの意地っ張りな性格の所為で喧嘩友達状態になります。この2人のややこしい関係と、ダム建設を阻止しようという妖怪たちの動きが絡んだストーリーになっています。

ラフが没になってからも、いつか何とかして世に出したくて、ずっと新聞記事や本屋の土木工学専門書コーナーなどで、ダム関連の資料を集め続けていたのですが、調べていくうちに、ストーリーの一番大事な「ダムを破壊する」と言う設定部分に致命的な誤りがある事が判明。「ああ、もうこの話はどうにもならないわ・・・!」と、一時は絶望したのですが、それでも諦めきれずに今でも資料を探し続けています。ダムの見学もその一環でした。

実はこのダム、私がラフを描いた時点では、水没する村に住んでいる方々の移転問題で揉めに揉めている段階で、未だダムの影も形もありませんでした。実際に工事が始まったのは4年前(’99)。4年経った今、何処まで進んでいるかと言うと、ダムを造る基礎の岩盤の掘削が終わり、本体の盛り立てがやっと全体の2割程。まだ殆ど平面を地ならししているような状態で、作画に必要なダム本体の写真が撮れませんでした。これからおそらく毎年募集するであろう見学会に何としても参加し続けて、次第に出来上がって行くダムの写真を撮らねば、と思いながら帰って来たのでした。

しかしこのダム、昨今の「無駄な公共事業の見直し」論議の格好の標的になっていて、もしかしたら建設が中止される可能性があるかもしれないのです。ダム反対の立場でラフを描いた私としては、中止になるのは良しとせねばならないのですが、実際に物凄いスケールの建設現場を目の当たりにし、現場の責任者の方に質問したりしているうちに、人間ってこんな凄いものを作れるんだ、と言う事に何だか胸の押し潰されそうな程の大きくて深い感慨を覚えてしまい、色んな批判を受けながらも、この仕事に誇りを持って頑張っているであろう現場の人達に、このままあの物凄いダムを最後まで作らせてあげたい、と言う想いが湧いて来て、自分でもちょっと驚いたというか、複雑な心境になりました。

・・・でも漫画では、やっぱり思いっきり破壊してやろうと思っています。その為にはもっと資料を探さないと・・・。見学会では、「建設途中のダムに壊滅的な打撃を与えて破壊するには、どうすれば一番効果的なんですか?」などとは流石に現場担当者には聞けなかったので(^^;)、上手く誤魔化して質問はしたんですが・・・やっぱりダイナマイト使わなきゃ駄目かなあ。ラフを描いた段階では爆破は考えになかったんですが、あの巨大なダムを崩すには、相当な破壊力が必要だと痛感しました。
『漫画で学ぶ専門土木・ダム』と言う、なかなか良い本は持っているんですが、もっと詳しい写真や図版が欲しいです。『知っておきたい発破の予備知識』『発破従事者のための発破のポイント』って本も探さなきゃ。しかし、日常生活に全っっ然役に立たない本ばかり増えて行くなあ・・・。

「ダムだからでかいのは当たり前、何言ってんの?」と言われると思いますが(^^;)、ラフを描いた時には、でかさの感覚が実感として掴めていなかったんですね。水没する村の昔の写真集を2冊持っているんですが、そこに写っている川は凄く小さいんです。それもダムの大きさを想像し損ねた一因でした。上流だから川幅が狭くて当然なのですが、ダム工事が始まると、あんなに岩盤を削って川幅が広くなるとは想像が付きませんでした。やっぱり物描きには現地取材・現物確認は必須だなあ。

右上の妖怪みたいなのは善彦の祖父。私としては割とお気に入りのキャラなんですが(笑)一番下は百鬼の立てた策にはまって死んだ河童。その後これに対する報復が・・・。

この辺りはクライマックスに近いコマ。しかしどれもこれも、見るからに少年漫画畑で育ったって感じの絵ですね・・・。女は全然出て来ないし・・・、って、それじゃ少年漫画では受けないか。服の前はだけて走ってるのが巨乳のロリータ少女だったら喜ばれるんだろうけど(描けないってばそんなの)(^^;)、泥まみれで裸足で全力疾走してる傷だらけの男の子の方が、描いてて気合い入りますね、やっぱり。

上2つのコマで着物を着ているのは、ストーリーの鍵を握る座敷童子。
下のコマは、雨上がりの雲間から刺す月光に照らされて、
善彦の背後に迫る河童。かなり重要な場面で、思いっきり力を入れて描きたかったんですが、当時、勉強不足で民家の設定を間違えていたので(岩手の筈が秋田の民家を描いていた)、改めてラフを描き直す時に、この造り(縁側の向こうに、土間を挟んで柵状の格子が巡っている)は変更しないと駄目になりました。・・・う〜ん、残念!

・・・これだけでなく描き直さなきゃならない箇所は山程あるんですが(^^;)、頑張って資料を検討し直して、きちんとした形で必ず世に出したいです。いつになるやら判りませんが、描かずには死ねません。・・・って、「描かずには死ねない」ものが他にも沢山あるので、未だ当分の間は死ねないなあ。

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