暁の獅子
けだもののような人間よりも
心やさしい猛獣に
こんどは生まれてきたかった
そういって
右の手首を喰いちぎったきみ
左手にはしっかりとぼくの腕をつかんで
闇にさまよう生きものの
吐息のようになまあたたかく
ぼくらを包むアフリカの夜
波打つ君の髪だけが
金色にけむってまるで
獅子(ライオン)のようだね
バオバブの樹のむこう
暁の気配が風になる
禿鷹が空に舞うまえに
きみをサバンナのどこかに隠さなくては
きみを背負ったぼくの腕には
きみの願いがくっきりと痕を残して
琥珀色の夜明けのようにもえている
ぼくはひたいに少し汗をして
湿った土の匂いをかいでいる
と
―――――――――― 豪雨(スコール)!
―――――――――― 雷鳴(サンダー)!
たてがみを盾に
四ツ脚の内にきみをかばって
ぼくは一時(しばし)
心したたる沈黙のなか
*
打ち倒された草の上
ひとふさの髪を残して
雨とともに
きみは大地にしみこんでしまった
ぼくはそこにねそべって
腕の痣(あざ)をなめながら
金色の種が芽ぶくのを
お腹の下で待っている
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