展翅板に拡げられ

死んだ時間を吸い続ける

記憶の蝶たち

 

樹海のように生い茂る

人間たちの記憶の森に

燐光を放ちながら

ひらひらと彷徨う蝶を

疵痕の数だけ

(はりつけ)にしてきたはずなのに

 

足りないのだ 一頭

いちばん鮮やかなやつが

彼の人に出会った時

電光のように

胸板を貫いて飛んだやつ

黒地に螺鈿(らでん)の散る(はね)

鋭角に視界を切り裂いて

あれから私は

傾いたまま

 

だから

やつが

日輪のように金の輪を巻いて

記憶のたそがれの彼方に

消え失せてしまう前に

どうしても

つかまえておかねば

ならないのだ

 

追い求めているうちに だが

途を失い

いつしか私は

降りしきる時の燐粉に

幻惑されてしまったらしい

 

(つかまえてピンに刺す一瞬

生けるが如く震える

その瞬間(とき)から

記憶は私のものだ)

 

花吹雪のように舞う蝶の群の下

未来の記憶を垣間見た時

癒えない疵を貫いて

板に立つピンの音を私は聞いた

 

(蝶を追う私を

追っていたのは

彼の人

だったのだろうか)

 

私のコレクションは未完成のまま

永劫に時を吸い続けるに

ちがいない


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