孤鬼(ひとりおに)

 

プラチナ・タイルの摩天楼には

非常口という名の鬼門がある

鬼門の方角にはあなたの家が

立ち上がる建物の影の中

薄暮に彷徨う塵芥を吸い寄せて

ひときわ闇(くら)

 

彼方の地平の毳(けば)立つ輪郭

逢魔が時

都会の空は照り映える巨大な縞瑪瑙

みはるかすネオンの光が

全身に突き刺さる

今夜はさぞかし

星の光も凍るだろう

 

そんな夜は封印を解いて鬼門を開けよう

私の魂は鬼火となって

あなたの眠る地上を舞うだろう

 

命の灯はゆらめいているか

地球の裏側では

(まばゆ)いコロナと

噴き上がるプロミネンスに灼かれて

幾つもの星が死んで流れる

人工の灯はあんなにも

笑いさざめいているのに

 

扉に当てた掌に力を込めた瞬間(とき)

落日の裾を追うように

西に向かうあなたの人魂を視た

 

封印を解く術(すべ)を忘れた鬼が

人目をしのぶ夜の雲のように

蒼黒くひそやかに

風に撓(しなう)摩天楼の中で

身悶えしている


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