深海魚

 

その日

胸焼けする夢をもて余して

私は見知らぬ街に澱(よど)んでいた

蒼く湿った頭蓋骨のなかで

私は脳の潰れる音を聞いた

 

のしかかる水圧に歪(ひず)んだ嗤(わら)いをつくり

倦怠の気泡を体液にとけこませながら

汚泥の溜まる海溝のような往来を

漂いあるく群衆

海月(くらげ)のように

時間のなかでひしめいて

互いの毒針をつきたてあっている

 

燐光に群がり

退化した眼球をうごめかせ

共喰いを始める神経

 

喰べ切れぬ夢が

未消化のまま

私のなかで

狂乱の粘液にふとりながら

できもののような真珠になるのを

まっている


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