漆のような珈琲に爛(ただ)れた胃がひとつ

ぼんぼりのような眼をして

坐っている 鋏(はさみ)の上に

女の爪の切り屑のような月が

(あか)い酒の色をして

ずり落ちてくる 窓の中に

 

散弾銃の音

胃に群がる星々の砕片

噴出する疲労と混沌の霧

闇の触手にひきずられて

夜の歩道にでる

裸足であるきまわる胃

影のような音をさせ

ひたひた

足の裏から融けてゆく気配

 

落ちていた魂を踏んづけた

奥歯で噛んでみる

こりり

――――――

吐き出された種は

蒼いあをいカタチをして

魂のいた路上に端座した

 

家の蔭

ポリバケツの向こう

塀の上から覗き見ている

猫、ねこの双眸(まなこ)から

ふにゃふにゃと逃げながらあるいてゆく胃

空が白んできた

 

さえずりはじめた鳥をつかまえて

ばりばりと喰ってみようか

悪夢を祓う儀式のように


ホームへ