残照

 

たそがれの街に頭(こうべ)を垂れる

人肌の灯りのほの暗い陰に

落陽いろに縁どられた

墨染めの影法師が

置き忘れられている

 

捨てられた子猫の

鳴き声の微かさ

肩に降る枯葉の

昔語りの音に消されて

角の潰れた箱の周りに

ちいさく光る水滴となる

 

生い茂る高層ビルの

角ばった尾根が谷が

紅葉色に乾いていく

夕焼けの光に溶ける飛行機が

ねぐらに帰る烏の群にまぎれて

一枚の闇に塗り込まれる

街を捨てて旅にでる

 

魚の小骨のような月が

サーチライトの隙間にかかる

四つ角にたちどまり

紫に沈む街の音を聞く

縫いとじられたお手玉の

なかでよりそう小豆のように

魂の指先に触れる想い

 

宵闇のなか

切れかけた街灯の

シグナルに誘われて

銀河鉄道の片道切符を手に

なくした夜明けを探しにいこうと

心のどこかで声がする


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