人物紹介・兄宿儺(えすくな)・弟宿儺(おとすくな)
兄宿儺 | 弟宿儺 |
「宿儺(すくな)」は、『日本書紀』にわずか数行ですが出て来ます。そこでは仁徳天皇の時代、岐阜県の飛騨にいた、まつろわぬ(朝廷に従わぬ)異形のものとして書かれています。
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この「1つの身体に2つの顔」と言うところから、「両面宿儺(りょうめんすくな)」と呼ばれるようになるのですが、この記述だと、1つの身体に顔2つ、手足4本ずつという、所謂シャム双生児のような姿になっています。 しかしこれはおそらく「土蜘蛛」等と同様に、身体や風習の特徴を誇張したり、わざと異形の物に仕立てて「我々とは違う、賤しいもの、人ではないもの」と思わせるようにして、「まつろわぬもの」を差別的に書いた、当時のよくある表現だと思われるので、勿論そのまま信じられるものではありません。 私は2人の「宿儺」がいたと考え、姿形がそっくりな兄弟と言う設定にして、「兄宿儺(えすくな)」「弟宿儺(おとすくな)」と言う2人のキャラクターを造りました。「両面」=「顔のそっくりな2人」と言う解釈です。 |
宿儺は『日本書紀』では朝廷に逆らった悪者として書かれていますが、地元である岐阜県の飛騨地方では、「スクナサマ」と尊称され慕われており、
宿儺に関係する遺跡や伝承が数多く残っています。 丹生川村の出羽ケ平には「両面窟」があり、両面宿儺はこの岩窟を根城に活躍し、此処で討たれたと言われています。 また大野郡宮村の飛騨一宮・水無(みなし)神社の付近が、宿儺と朝廷軍の古戦場とも言われています。 両面宿儺が寺を開いた、と言う伝承も岐阜県の飛騨〜美濃に掛けての各地にありますが、これは後世に作られたものと考えた方が良さそうです。ただ、そうした寺社の縁起の中には面白い伝承も混じっています。宿儺が初代天皇の即位に関わった事になっているのです。
という事になっています。 また、歴代天皇の即位式の際、千光寺・水無神社から「一位の笏(しゃく)」を新天皇に献上した記録が残っており、この慣例は現在も続いています。飛騨の位山の一位の木で笏を作る事は、養老三年(719)
(『日本書紀』成立の前年)に制定されたのですが、その理由は不明です。
また飛騨の宮村には、「位山の鬼神・七難を両面宿儺が退治した」と言う伝承も残っています。とすると、宿儺も余所から来て、「七難」と言う先住者を追い払って位山に住み着いた事になります。「七難」を「退治」したという記述からも、宿儺に対しては地元では悪い感情を持っていなかった事が推察されます。 この位山・船山
は、続く川上(かおれ)岳とあわせて「位山三山」と呼ばれ、東西に一直線に並び、東海と北陸を南北に分ける分水嶺です。 |
・・・こうして「両面宿儺」とは、「仁徳天皇の時代、飛騨の位山を拠点に、東海・北陸両側にまたがる広域を支配していた2人の兄弟だった。朝廷への服従を拒んだ為に、その一族は攻め滅ぼされた。」と言う設定を元に、キャラクターをあれこれ考えてみました。 「兄宿儺」は政治を担当、実質的な首長はこちら。豪放磊落、野性的、言動は派手。しかしこう言うタイプにありがちな残虐性は無く、一族の運命を背負っていると言う悲壮感も無し。 2人は最初、双子にしようと思ったのですが、歴史的背景を色々探っているうちに、異母兄弟にした方が面白くなって来たので、ちょっと無理がありますが「ともに父親似のよく似た顔立ちの兄弟」と言う事にしました。「兄宿儺」の母の一族と「弟宿儺」の母の一族は、かつて仇同士だった、と言う設定になっています(未発表のため詳しく書けなくてごめんなさい)。 |
なお、カラーイラストでは描き込んでいませんが、設定メモでは顔と全身に、兄は黒い入れ墨を入れ、弟は朱の泥絵の具で模様を描いています。ラフの段階ではこんな感じでした。
私は宿儺一
族は、山中に拠点を持つ事から、縄文系の風習を踏襲しているのではないか、と推定し、更に朝廷側が「飛騨人は容貌が特異」と認識していた事から(ごめんな
さい出典を失念しました)、縄文的な彫りの深い顔立ちに、縄文人がしていたような入れ墨や彩色をしていたのではと考えました。 激痛を伴う入れ墨は、豪放な性格の「兄宿儺」に似合います。一族の者は成人すれば皆入れ墨をするとしても、それは部分的にであって、「兄宿儺」は顔も身体も隙間無く入れ墨をしている事にすれば、首長としての威厳を示せるのではないか。皆揃って入れ墨をしていれば、朝廷軍が攻め込んで来た時にも威嚇効果抜群だし。 それに対して「弟宿儺」はシャーマンと言う特別な地位にあるので、一般の成人とは異なり入れ墨はせずに、常時彩色を施していると言う設定にしてみました。 こ
の他にも縄文系の風習として、もしかしたら抜歯(わざとまともな歯を何本か抜いて、歯並びに隙間を作る)や、研歯(歯の表面に何本か縦筋を刻む)もしてい
たかも知れません。そうすると口を開けたときのインパクトが凄いので、威嚇にはもってこいですが、笑い顔も凄惨な事になります。 |
ち なみに縄文人の髪型は、文献資料等では、長い髪を頭頂で纏めて櫛等で止めた、大相撲の力士のような形になっていますが、「縄を編むのが得意だっただろうか ら、髪も編み込んでいたかも知れない」と言う記述があったのを見て(ごめんなさい、これも出典を失念しました)、複雑な三つ編みをしていてもいいんじゃな いか、と考えて、こんな髪型にしてみました。 し
かしいくら漫画だからって、こんなんでいいのか、とちょっと不安だったのですが、先日たまたま見に行った飛騨の縄文時代の遺跡の発掘現場から、頭頂部で複
雑に編み込んだ髪型の土偶が出土していて、「もしかしたら、ややこしい三つ編みってアリかも!!」と興奮して帰って来ました(これは落描きの「縄文人」で紹介しています)。 |
衣については、文献資料に良くある縄文人の衣装の「鹿皮に黒と朱の漆で模様を描いたもの」と言う設定にしました。 兄は直線的で強い感じの模様、弟は曲線的で柔らかい模様にしてあります。兄は素肌に着ていますが、弟はその下に「編布(あんぎん)」と言うものを着せています。 資料には、やはり模様入りの手甲・脚絆を付けている姿等も描かれていて、縄文人は結構お洒落だったようです。 なお、背景の模様は実在の縄文土器を参考に描きました。土器を見ながら下絵を描いていて驚いたのですが、一見すると単純なパーツのくり返しに見えるのに、実は細部を微妙に変えて繰り返すデザインになっているのです。(「弟宿儺」の背景でそれが良く解ると思います) 縄文人のデザイン感覚って凄いです。いつか込み入った模様の縄文土器を見る機会があったら、同じような細部のパーツを比べてみて下さい。微妙に違っていて驚く事があると思います。 |
・・・簡単にキャラ紹介するつもりが、何だか物凄く長くなってしまいました。 此処までお付き合い頂き、有り難うございました。 |
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